ライナーノーツ
1.世界中の誰よりきっと
オリジナルは中山美穂&WANDS。1992年10月28日リリースのコラボレーションシングルであり、オリコンチャート最高位1位、1993年度年間売上げ10位、ダブルミリオンを記録した。
この90年代J-POPを代表する名曲は、オリジナルを丁寧に踏襲しながらあの90年代ビーイングサウンドのキラキラ感を見事に現代に甦らせている。オープニングのバスドラムのリズム、カスタネットの乾いた響き、美しいコーラスとキーボードの音色、そして8ビートを刻むディストーションギターは、これぞビーイングサウンドの醍醐味。歌い出しからDAIGOのボーカルも瑞々しく力強い。まるであの時代、あくまで音楽が主役だった、その魂が乗り移ったかのようだ。男性ボーカルがメインな原曲のアレンジはWANDSバージョン(2nd AL『時の扉』収録)を踏襲している。デュエットの女性ボーカル部は図画泉美が担当。力強く美しいギターソロは森丘直樹がプレイしている。
2.もっと強く抱きしめたなら
オリジナルはWANDS。1992年7月1日リリースの3rdシングル。初登場は47位だったが「世界中の誰よりきっと」で注目を集め、翌年のチャートで29週目にしてオリコンチャート1位を獲得。その後もロングセールスを続けミリオンセラーを記録した。
オリジナル同様、印象的なギターソロからの導入部にハッとさせられる。また特筆すべきは、軽やかなリズムトラックに乗って届けられるDAIGOのボーカルである。芯のあるストレートな発声による力強くハリのある歌声は、これまでとはひと味違う魅力を放っている。特にサビメロはまるで水を得た魚のように快活でありながら、包容力に溢れ、自然と歌詞の世界観へと引き込んでいく。灰原大介のコーラスとのハモリも躍動感に満ちていて心地よい。
今作のボーカルレコーディングのディレクターを務めたのは、当時ビーイングのディレクターを担当していた寺尾広。そこにも大きな価値を感じる。
3.突然
オリジナルはFIELD OF VIEW。1995年7月24日リリースの2ndシングルで、オリコンチャート最高位2位を獲得。前作「君がいたから」の売上90万枚を超える彼ら唯一のミリオンセラーであり、ポカリスエットCMソングとしても人気を呼んだ。どちらも今は亡きZARDの坂井泉水の作詞だ。
イントロ無しの歌い出しで始まるオープニングは、オリジナル同様、今作でもドキッとさせられる魅力がある。原曲の斬新さを忠実にトレースしながら、全体的にはよりモダンなアレンジが施され、四つ打ち系のリズムにマーチ風なリズムトラックが絡む部分も新鮮。FIELD OF VIEWというとUK系の雄大なサウンドを思い起こすが、DAIGOバージョンでは楽曲の力強さはそのままに、よりソフィティケイトされた軽さを伴っている。DAIGOのボーカルは本家・浅岡雄也の声質に比べてより甘さの効いたスタイルだが、だからといってサビでの張った歌声はこの曲の強さに負けていない。また、坂井泉水のペンによる歌詞を、DAIGO風に表現しているスタイルも新しい風を吹かせている。灰原の男性コーラスと図画の女性コーラス、その重層的なコーラスもいい味を出しており、ビーイングサウンドの要であることを思い起こさせてくれるアレンジだ。よりロック色を際立たせたギターサウンド、森丘のソロも聞き物である。
4.永遠
オリジナルはZARD。1997年8月20日リリースの22ndシングルで、オリコンチャート最高位1位を獲得。1995年、渡辺淳一の恋愛小説「失楽園」のテレビドラマ化主題歌としても話題になった。
オリジナルは生ストリングスをフィーチャーしたオーケストラサウンドが魅力の壮大なバラードナンバーだったが、DAIGOバージョンは雄大なアメリカン&ブルージーな印象のサウンド。ゆったりとしたテンポに乗って歌われるDAIGOの歌声は、前半部は優しく柔らかなスタイルで進みながら、楽曲がドラマティックに盛り上がるにつれて男性的な色香を漂わせてくる。原曲も曲中盤部から後半部にかけて雄大に盛り上がっていくが、ここでは森丘のギターソロのスケール感がそのクライマックス感を演出している。全編に渡って味わい深いトーンを響かせ、アーシーなギターサウンドを奏でているのは竹田NINJA京右である。
5.離したくはない
Guest Vocal 森友嵐士(T-BOLAN)
オリジナルはT-BOLAN。1991年12月18日リリースの2ndシングルである。オリコン91年12/30付初登場74位からじわじわと上昇を続け、最高位は翌92年3/23付15位まで上昇。その後11/30付まで49週間にわたってベスト100位以内をキープするというロングセールスを記録。T-BOLANのエポックメイキング的名作として誉れが高い。
オリジナルではイントロの静かなピアノが印象的なナンバーだったが、今作では若干すっきりしたアレンジが施されて登場。1番で優しくDAIGOが歌うのを受けて、2番で森友嵐士が歌い、サビを二人が歌うその大人の色気漂うボーカルは格別だ。サウンドが重層的になっていくにつれ二人のボーカルも熱さを増し、感動へと聞き手を誘う。エンディング部のゴスペルチックな分厚いコーラスと二人のボーカルの掛け合いも素晴らしい。そんな楽曲を引き立たせる森丘の泣きのギターソロにも酔いしれてほしい。オリジナルリリースから27年、J-ROCKバラードの名曲は今も語り継がれるに相応しい存在感を放っている。
6.君が欲しくてたまらない
オリジナルはZYYG。1993年5月19日リリースのデビューシングルで、サントリービール「ダイナミック」のCMソングとして好評を博し、オリコンチャート最高位3位まで上るスマッシュヒットを記録した。
オリジナルでは高山征輝のボーカルによるダイナミックな唱法が刺激的だったが、今作ではDAIGOの甘い声質を生かしたスローなサビ頭の歌い出し、そこからスピーディーにテンポチェンジしてAメロに入っていく。こういった何気ないアレンジの変化がボーカリストの魅力の違いを引き出していて興味深い。また、この曲はBOØWYに通じるビート系の匂いがあり、さすがこういう疾走感ある作品に乗せるエッジィなリズム感はDAIGOの得意とするところであろう。オリジナルの魅力を損なうことなく、力強さと甘さを両立させた楽曲に仕上げている。
7.あなただけ見つめてる
Guest Vocal 大黒摩季
オリジナルは大黒摩季。1993年12月10日リリースの6thシングルで、テレビアニメ「スラムダンク」の初代エンディングテーマを飾った。オリコンチャート最高位2位を記録し、1994年度年間8位にランクインしたミリオンシングル曲である。
この2018年版「あなただけ見つめてる」は、アルバム中最もオリジナルから進化したアレンジとコラボレーションが発揮されたカバーと言えるだろう。全編に渡ってDAIGOと大黒のボーカル・コラボレーションがたっぷりと楽しめる。それにしても女性ボーカル曲を歌う時のDAIGOの歌声は甘い誘惑にも似た優しさが滲み出ている。そして、この曲では完全に女形、対して大黒のストレートな歌声は男形だ。この男女ボーカルの対比は斬新にして刺激的なテンション。2018年の男女間の恋愛模様を象徴するような仕上がりとなった。
8.甘い Kiss Kiss
オリジナルはREV。1993年4月14日リリースのデビューシングルである。GRASS VALLEY解散後、出口雅之がREVとして再スタートした勢いのあるナンバーは、オリコンチャート最高位8位をマーク。「カメリア ダイアモンド」CMソングを担当した。
原曲は80’s UKニューウェイヴの香り漂わすデジタルビートナンバーだったが、今作ではより2018年版にブラッシュアップされたデジタルサウンドが表現されている。しかし、やはりREVもDAIGOも音楽的ルーツは70年代デヴィッド・ボウイを中心としたグラムロック、そして80年代のニューロマンティックを経験しているせいか、こういう楽曲でのグラマラスなボーカル・スタイルはお手のもの。BREAKERZとして披露しても様になる妖艶さを放っている。
9.このまま君だけを奪い去りたい
Guest Vocal 池森秀一(DEEN)
オリジナルはDEEN。1993年3月10日リリースのデビューシングルで、オリコンチャート最高位2位を記録、ミリオンを放った。
DEENのデビュー曲にして今も歌い継がれる名曲を、これまた本家・池森秀一の歌声と共にコラボレート。DAIGOが熱くバラードを歌い上げ、先輩池森がそれを優しく見守るような歌声のコラボレートが何よりも素晴らしい。90年代を代表する美メロバラードの名曲だけにアレンジも原曲のイメージを崩すことなくシンプルに、かつ90年代風のくどさをスッキリさせていて好感度アップ。二人の歌声の力だけで楽曲を際立たせようという意向がベストマッチングした成果ある出来映えに感動必至。
10.Secret of my heart
オリジナルは倉木麻衣。2000年4月26日リリースの3rdシングルで、「名探偵コナン」のエンディングテーマとしても人気を博し、オリコンチャート最高位2位を獲得。「Love, Day After Tomorrow」に続く売り上げ枚数を誇り、初動売上では自身最高を記録した。
オリジナルはボストンのCybersoundチームによるデジタルR&Bなトラックだったが、今作ではデジタルにしてよりウォーム&アコースティックなテイストが盛り込まれ、よりボーカルの色が際立つ音作りになっている。大野愛果作曲による美しくも切なく、和テイストも感じさせるメロディーを丁寧に歌い込んでいるDAIGOの歌声、その憂い溢れる空気感は彼にしか出せない魅力と言えるだろう。さらにそれを引き立てている女性コーラス部は森川が担当。アレンジでは間奏部のtommyによるトロンボーンの味わい深さがいい。作り手の哀愁ここにあり、か。
11.果てしない夢を
森友嵐士(T-BOLAN),大黒摩季,池森秀一(DEEN)&DAIGO
オリジナルはZYYG,REV,ZARD&WANDS featuring 長嶋茂雄。1993年6月9日リリースの日本テレビ劇空間プロ野球イメージソングとして企画制作された楽曲で、オリコンチャート最高位2位を記録した。当時のビーイングを代表するアーティスト、ZARD、WANDS、REV、ZYYGが集結し、読売ジャイアンツの監督に再就任した長嶋をゲスト・ボーカルに迎えてレコーディングされた貴重な作品である。作詞は坂井(ZARD)、作曲は出口(REV)、編曲は明石昌夫、コーラスに近藤房之助、川島だりあ、大黒摩季、Quncho、生沢佑一が参加している豪華さ。
そんなビーイングのレーベルオールスター的作品を2018年に復活させるにあたり、ボーカルにはDAIGOの他に、森友、大黒、池森が参加。さらに灰原、図画、森川のコーラスが加わり、原曲の華やかさを見事に再現している。こういう楽曲を聞くとやはりJ-POPの要は歌声であり、楽曲のメロディーであり、そしてアーティストたちが奏でる音楽への愛情であると思い知らされる。まだまだ音楽は果てしない夢を抱えて進むのだ。